個展御礼と大切なお知らせ

 こんばんは。
 今年も『ななついろ洋品店』の個展が終わりました。

 みなさまありがとうございます。

 色々今年は節目の気配や、実際の節目も多い一年でした。その一つとして、2026年の個展で『ななついろ洋品店』の個展は最後になります。先のことはわかりませんが、現状最後になります。今年の個展の延長線上になる展示、および今年は実施しなかったオーダー会もする予定です。日程が決まりましたら、また各種SNSでお知らせいたします。

 どうか、今からお心を寄せていただけたら嬉しいです。

 最後に、今回の個展で綴りました物語を掲載して締めさせていただきます。

 改めて、ありがとうございました。

【Re:Chronicle】

 あれからせっせと、一人と一匹は働きました。

 騒々しい海に沈む貝の破片から、虹色の部分を取り分け、相応しい大きさに砕く夜。
 ありとあらゆる世界中の色彩から、とっておきの色を選ぶ午後。
 丹精込めて選び抜いた、パーツの組み合わせを考えながら、開ける朝。

 季節を越えて、時を越えて。
 忙しなく、ひたすら毎日働きました。

 真っ青だったはずの海が、気がつけば赤く染まる。
 それにも気がつけずに。
 本当は気がついていたはずなのに、無視をして。

 ふとが気がついたとき、すでに十年が経っていました。
 一人と一匹は、届けるのに必死で自分たちのことを振り返る余裕がなくなっていました。

 ハムスターは言います。
「僕らはこのまま作り続けてもいいのかな」
 店主は言います。
「信じてやってきたけれど、少し足を止めようか」

 そうして、久しぶりに店をcloseにしました。

 休暇をとって最初に訪れたのは街です。
 久方ぶりに店を眺めると、十年前とは比べ物にないほどに、アクセサリーがあふれていました。
 色とりどりで、可愛い作品たち。
 それを作り上げる人たちは、もれなく幸せそうで、一人と一匹は少しだけ寂しい気持ちになりました。
 色々、選べるようになったこと。
 それは、とても喜ばしいことなのに。
 人々は楽しそうにしているのに。

 二人は、不思議と寂しい気持ちになりました。

 次に、市場へ向かいました。
 落ち着いて見る市場には、十年前よりもたくさんの材料が売っていました。
 新しい顔料、海外から来た絵の具、変わった素材。
 華やかに並ぶ様々な材料。
 洋品店を開いた頃より、たくさんの人が創作に触れられる。
 一人と一匹は、それを素敵なことだと思いました。
 でも、次の瞬間。
 それは、ライバルがとても増える原因だとも悟りました。
 気がついた瞬間、不安が襲い掛かります。

 二人は、顔を見合わせると、どうしようと頭を抱えました。

 当てもなく彷徨ううちに、背の高過ぎる木々の森へ辿り着きました。
 僅かに月明かりが差し込む、暗い森です。
 冷んやりとした、空気から身を守るべく、一人と一匹は寄り添いながら進みます。
 店主の歩幅とハムスターの歩幅は違う。
 足音だって違います。
 早く進みたい店主と、もったりしたハムスター。
 でこぼこな二人。
 それでも、狼の遠吠えやどんどん冷たくなる体温に怯えながら、進みました。
 このひどい世界はどこまで続くのだろう。
 足を止めたい。
 やめてしまいたい。
 けれども、進み続けました。

 どれほど歩いたか……わかりません。
 ただ、突然目の前がふんわりと明るくなるのです。
 モノクロの木々に覆われた視界が、晴れていく。
 一人と一匹は、何が起こった理解が追いつかない。
 どちらとも、ゆっくりと瞬きを一つして目を凝らします。
 
 四つの瞳に流れ込んできたのは、白い月。
 大きな満月、冴えた星明かり、波のない湖面。
 色のない静寂。
 そこは、全ての生き物がいなくなったあとの世界のよう。
 でも、不思議と恐ろしさを感じません。
 
 広がる光景をじっと見つめると、色がないと感じた世界が違っていたことに、だんだん二人は気がつくのです。

 月の周りの光は虹色。
 星の光は青白い。
 月明かりに照らされた湖畔に咲く蛇苺の赤。
 木々に絡みついた野葡萄の暗い紫。

 どんなに暗い場所にいても、この世界は無彩色ではない。
 歩んできた時間の中で、見つめてきた色は無限にあった。
 届けてきた色もたくさんあった。

 一人と一匹は、少しだけ涙を流すと後ろを振り返ります。
 歩いてきた道には、キラキラした二種類の足跡がありました。

「私たちは、誰かのためにと始めた。でも、救われたのは自分自身だったのかも」
「これからは、僕らのことも大切にして色を紡ごう」

『じゃあ帰ろう、あの洋品店に』